石ころ

ある山に、たくさんの石ころ達がいた。
ほとんどの石ころは黙ってしゃべろうとしなかったが、
一つだけ、おしゃべりな石ころがいた。
その石ころは自分が石ころなのが、嫌で嫌でしかたなかった。
石ころなんてつまらないし、何もできないし、誰も見向きもしない。
だから、いつも他のものになりたがっていた。

あるとき、鳥が空を飛んでいた。
石ころは鳥になりたいと思った。
「鳥さん。僕は君みたいに空を飛んでみたいんだ。
　きれいな声で歌ってみたいんだ。
　どうしたら君みたいになれるんだい？」
石ころは鳥に尋ねてみたが、鳥は知らん顔をして飛んでいってしまった。

あるとき、リスが木の上を走っていた。
石ころは、リスみたいになりたいと思った。
「リスさん。僕は君みたいに木の上を走ってみたいんだ。
　楽しくとび回ってみたいんだ。
　どうしたら君みたいになれるんだい？」
石ころはリスに尋ねてみたが、リスは知らん顔をして走っていってしまった。

あるとき、雨が降っていた。
石ころは雨みたいになりたいと思った。
「雨さん。僕は君みたいに空から広い世界を見てみたいんだ。
　あちこち旅をしてみたいんだ。
　どうしたら君みたいになれるんだい？」
石ころは雨に尋ねてみた。
すると雨はこう答えた。
「川に流されて海へ出てごらん。そうすればお日様が私たちを空へ連れて行ってくれるよ。」
石ころはそれを聞くと、うれしくなって、自分も雨になってみようと思った。
それで、雨たちと一緒に川のほうへと転がって行った。

石ころが川に飛び込むと、川が背中を押してくれて、石ころは川底をゆっくりゆっくり転がっていけた。
「僕は雨になるんだ！」
石ころを大きな声で叫んで、川の中を転がっていった。
石ころは、この調子で行けば海にもすぐ着くだろうと思っていた。

しかし、2，3日すると川の様子が変わってきた。
だんだん水が減って、流れもゆっくりになってきた。
そして、とうとう石ころは前に進めなくなってしまった。
「待って！僕も連れて行って！」石ころは叫んだが、川の水は忙しそうに先へ先へと山を下っていってしまった。

石ころは一人ぼっちになってしまった。
そして、寂しくなってわんわん泣いた。
いくら涙を流しても、涙は石ころを海には連れて行ってくれなかった。
石ころは何日も何日も泣いて、一週間たった頃、泣きつかれて眠ってしまった。
そして、何日も、何ヶ月も、石ころが目を覚ますことはなかった。

それから、どのくらいたっただろう。
石ころが目を覚ますと、そこは浜辺だった。
眠っている間に雨が海まで運んでくれたのだ。
石ころは嬉しくなったが、自分の姿を見てがったりした。
石ころは雨にはなっていなかった。
空をいくら眺めても全然近くならないし、お日様は石ころを空に連れて行ってくれる様子もなかった。

石ころが、もう空を見るのをやめようと思ったそのとき、急に空が近づいた。
「お母さん、見て！この石まん丸でとってもキレイだね。」
女の子が石ころを手にとってキラキラした瞳で見つめていた。
「本当ね、とってもキレイね」
女の子のお母さんも石ころを見ていた。
女の子は、石ころをポケットに入れた。
ポケット中はとってもあったかかった。
石ころは、それで幸せだった。

～おしまい～