再びエピローグ

「来るな！来ないでくれ！それ以上近づいたら撃つぞ！」
追い詰められ、崖を背にし、俺は使い慣れない拳銃を構えていた。
愛すべき人に銃口を向けるということの意味も知らずに・・・。
ミルが一歩こちらへと歩み寄った。
「くるなぁぁっ！！」
叫び声と同時に引き金を引く、銃声はやたら軽く、パンという音を立てただけだった。
その反動で後ろにのけぞり、数歩下がったところで足場がなくなる。
　朝日が反射して、赤い真珠のような液体がキラキラと輝いているのだけが見えた。
俺は銃口の先で、空が遠くなっていくのを見つめていた。
なぜこうなった？これが俺の人生の結末なのか？

俺はカーテンコールもないままに幕が降りてくるのを感じていた。
あの施設から逃げ出して、タチリが怪我をしていることに気がついて、ミルという花に出会った。
そこで一緒に働いて、タチリとミルが話しているのが聞こえて、ミルの母が死んだ。
それをきっかけにタチリと別れて、狂ってしまったミルに追われて・・・・・・・・
自由。未来。希望。夢。
あるはずだったんじゃないのか？
一緒に築くはずだったんじゃないのか？
俺の求めていたものは一体何処に行ってしまったんだろう。
落下はきっと一瞬だった。
その一瞬に俺の感じたものは何の答えもない疑問だけだった。

水面か、岩石に衝突する前に闇が訪れた。

何も見えない本当の闇。

その奥に一点の光が見えた。

光は徐々に近づいてきて、それは目の前で扉になった。

俺は立っていた。扉の前に。

扉の上には看板がかかっている。

”K　＆　T”

扉のガラス張りの部分から光があふれていた。

俺は扉を開ける。

光があふれ出し、辺りは一転して真っ白になった。

真っ白な光の中にひとつの影が見えた。

扉が閉まり、扉についていたらしいベルの音が耳に静かに届いた。

店のカウンター越しにいた人がこちらに笑顔を向けた。

「いらっしゃいませ。」

その声には聞き覚えがあった。光がまぶしすぎて顔がはっきりと見えない。

「遅かったなじゃないか。待ってたんだぞ、キヒト。おかえり。」

光の中で鮮明な笑顔が見えた。

タチリ！！

--------------------------------------------------------終

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