day3:boy meets boys

フィレーンは教室に入って、新しいクラスメイトの顔を見回した。
誰が河崎洋介なのかは即座に分かった。
ざわついた教室の中で、そいつの周りだけ空気が止まっていた。
他の人間は好奇の目でこちらを見ている。
まぁ、当然だろう。この田舎（この辺りでは田舎だろう。たぶん。）の公立中学で金髪なんて早々いない。
天然なのだから仕方のないことだが、やはり人というのは大多数と違う人間を好奇の目で見る。
（好奇の目なだけいいか・・・・）
非難の目で見られたりしたら、たまったものじゃない。
あと、敵意も勘弁だ。
「栄地フィレーンです。よろしくお願いします。」
やあ愚民ども、よろしく頼むからありがたく思え。というネタもあったのだが、さすがにヤバイだろうと思いそれは言わなかった。
月並みな挨拶をして、担任の指示された机へ向かう。
河崎洋介の前の席だ。
どうやら、クラス名簿を作るまでには編入届けが間に合ったらしい。
無造作に席に座り、先生が話し始めたところでフィレーンは後ろを向いた。
「お前が野上の従弟の河崎洋介か。」
フィレーンの言葉に洋介がビクリとした。
「・・・・え・・・何で分かったんだよ。」
小声で返してくる洋介の声にも顔にも「ビビってます」という空気が含まれていた。
「僕を見た反応で。普通、期待とか好奇心とかだろ。明らかにお前だけ驚愕と恐怖が出てた。」
「あ・・・・そうなの・・・・」
引きつった笑顔が似合う少年だ。
フィレーンはなんとなく、野上に虐げられているんだろうな。と思った。
癖のある黒髪に意志の強そうな眉の少年だ。眉の方は見た目だけらしい。
「あと、野上となんとなく似てる。」
「似てねぇよ！！」
さっきまでとは打って変わって、そこは即座に否定する。
大声で。
「河崎くん。どうしたの？」
担任がのほほんとした口調で聞いてくる。
この女性教師は天然が入っているらしい。
「いえ、すみません。」
洋介は素直に謝って下を向いた。
顔を下に向けたまま、下から睨みつけてくる。
「お前がくだらないこと言うからだぞ。」
フィレーンは肩をすくめて前に向き直った。
後ろでひそひそと話す声が聞こえた。
「洋介、お前知り合いなのか？」
「別に。」
「ふーん・・・で、誰に似てないんだ？」
「イトコ」
「・・・イトコと知り合いなのか？」
「らしいよ。」
後ろの声と担任の声を聞きながら、フィレーンは新しい生活に期待と希望を抱いていた。
洋介とはうまくやっていけそうな気がする。
こういう勘は結構あたる。
休み時間が待ち遠しかった。

一通り話も終わり、休み時間に入った。
３人の生徒が集まってくる、洋介の下に。
「お前、何HR中に叫んでるんだよ。」
一人が洋介を小突いた。
「ってかさ、栄地・・・・でいいんだっけ？洋介と知り合いなわけ？」
もう一人がこちらにいきなり話しかけてきたのでフィレーンは驚いた。
まさかこんなに普通に話しかけられるとは思っていなかった。
「え・・・・いや、従兄と知り合いなんだ。」
そこにいた全員が顔を見合わせた。
「洋介の従兄って・・・・・タツ兄・・・・？」
さらにもう一人が恐る恐る聞いてくる。
フィレーンはその空気に呑まれ、声を出しにくくなっていた。
３人に見つめられ中、静かに頷く。
瞬間、３人の瞳が輝いた。
「すげー！！マジで？！」
「何で何で？？どーやってあんな人と知り合ったの？」
「な、な、じゃあ彼女は？タツ兄の彼女は？！」
何故この３人がこんなに興奮しているのか、フィレーンにはわからなかった。
しかも、何から答えていいものかさっぱりわからない。
「お前らいい加減にしろよ。タツ兄タツ兄って、うるさいんだよ。」
洋介は明らかに不機嫌だった。
低い声で凄みをきかせているつもりらしいが、野上と違い全く怖くない。
それがフィレーンとしては不思議だった。似ているようで似ていない。
やはり同じ血が流れていても、育ちが違うと違うのか。と当たり前のことを思う。
前島（名札に書いてあったので名前が分かった）が洋介の頭に片手をのせる。
「洋介。ジェラシーは良くないぞ。」
「違う！！」
「え？何にジェラってんの？」
これは門田。
「タツ兄にか？お前が勝てるわけないだろ～。俺ら４人がかりでも無理っぽいもんな。」
山本が一人で「うんうん」と頷いて何処か誇らしげにしている。
「だから違うって言ってるだろ！！」
洋介が顔を真っ赤にして叫ぶ。
「・・・・あのう・・・」
盛り上がる（？）４人の後ろでフィレーンが小さく声をかけた。
最近こんなのばっかりだなぁ。と思いながら。
４人に反応する気配はなかった。
フィレーンは仕方ないと思い、息を吸い込んだ。
たぶん、この単語でどうにかなるだろう。
「あ、タツ兄。」
教室の入り口をさしてポツリと呟く。
４人が４人とも瞬時に指の先に顔を向ける。
洋介が最大限の恐怖の顔をしていた。
が、もちろんそこには野上はいない。
無駄に好奇心旺盛な生徒が入り口からこちらを伺っているだけだ。
「さて、じゃあ今のうちに学校案内でもしてもらおうか、河崎洋介君」
フィレーンはそう言って、立ち上がった。
「・・・・へ？」
４人は唖然としてフィレーンを見ていた。
フィレーンは注意が自分に向いたので満足したらしかった。
「野上から頼まれてるだろ？僕を宜しくって。」
洋介の顔が引きつっていく。
３人は納得したようだった。
「まさか、嫌とは言えないよね？」
引きつった顔から情けない、泣き顔のように変化していく。
よっぽど野上が怖いらしい。これは遊びがいがありそうだ。
「・・・・鬼だぁ・・・・・。」
洋介の悲痛な叫びにフィレーンは満足した。

これぞ中学生ライフ。１３歳の生き様だ。世間一般的には間違っているかもしれない。
しかし、フィレーンにとってはこういう生活が一番自分の中学生らしい生活であった。

[day3:boy meets boys]END

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